10月27日から開幕する「第38回東京国際映画祭」に先駆け、9日、東京・丸の内の日本外国特派員協会(FCCJ)で、アニメーション部門に選出された木下麦監督の初長編アニメーション映画『ホウセンカ(英題:The Last Blossom)』が上映された。
【画像】アニメーション映画『ホウセンカ』場面カット
木下監督は、多摩美術大学在学中からイラストレーター、アニメーターとして活動。アニメーターや監督補佐を経て、オリジナルTVアニメ『オッドタクシー』で初の監督・キャラクターデザインを担当し、同作で「Crunchyroll Anime Awards 2022」最優秀監督賞、「第25回文化庁メディア芸術祭」アニメーション部門新人賞を受賞するなど、今もっとも注目を集める若手監督の一人だ。
『ホウセンカ』は、『オッドタクシー』の脚本家・此元和津也、アニメーションスタジオCLAPとのタッグによるオリジナル作品。無期懲役囚の老人・阿久津が独房で死を迎えようとしたとき、彼に声をかけてきたのは“人の言葉を話すホウセンカ"だった――。花との“対話"を通して、阿久津の人生をかけた“大逆転"が描かれる。声の出演には、小林薫、戸塚純貴、満島ひかり、宮崎美子、ピエール瀧、安元洋貴、斉藤壮馬、村田秀亮(とろサーモン)、中山功太らが名を連ねている。
上映前には、同映画祭アニメーション部門の藤津亮太プログラミング・アドバイザーが登壇し、「この作品は大変ユニークな作品かつ、日本のアニメーションが培ってきたセンスを継承している。また高畑勲監督の日常生活を丁寧に描くという手法の延長線上にある作品だと思い、選出しました。大変繊細な作品でもある」と紹介した。
上映後のQ&Aではさまざまな質問が寄せられた。作中に登場する“人の言葉を話すホウセンカ"という発想について、木下監督はこう語った。
「前作が動物を擬人化した作品だったので、今度は動物以外のものにしゃべらせたいと思っていました。脚本の此元さんはせりふで物語を展開させるのが得意なので、物語の軸に“おしゃべりなキャラクター"を置こうと考えたのがきっかけです。そこから“しゃべる花"のアイデアが生まれました」
植物の中からホウセンカを選んだ理由については、「植物はそれぞれ生存戦略を持っていて、子孫を残すために工夫している。その中で、ホウセンカは触れると種がはじけるという特徴があり、“はじける"という動きが面白いと思いました」と語り、こう続けた。
「“はじける"というテーマは映画全体を通して貫かれています。バブル、風船、心臓、そして花火。花火はその象徴であり、主人公の人生と重なる存在です。美しく咲いて一瞬で散る――その儚さを描きたかった」
影響を受けた監督として、高畑勲、宮崎駿(※崎=たつさき)、マーティン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノ、北野武らの名を挙げ、「映画とは人間を描くものだと思っているので、そこを大切にしている」と語り、本作については北野監督の『あの夏、一番静かな海。』(1991年)から強い影響を受けたと明かした。「会話が少ない中で、映像のつなぎだけで愛を描く静けさと力強さに強くひかれました」と振り返った。
本作はフランスで開催された「アヌシー国際アニメーション映画祭2025」長編コンペティション部門に正式出品されたほか、「第38回東京国際映画祭」でも上映される。木下監督は、今後の創作活動について次のように抱負を語った。
「アニメーションは国境を越える素晴らしいカルチャーだと思います。日本の文化に根ざした題材をもとに、芸術性があり、新しい表現を生み出していきたい。土着的な文化から新しい世界観を発信していくことを大切にしたいです」
さらに、アニメーションならではの表現について問われると、こう答えた。
「植物に光が当たる瞬間や、木漏れ日の美しさなど、実際の風景にある根本的な“美"を手描きで再構築することで、より際立たせることができると思います。今は誰でもきれいな映像を撮れる時代ですが、手で描くことで世界の美しさをもう一度認識できる――それがアニメーションの強みだと思っています」
映画『ホウセンカ』は10月10日より劇場公開。「第38回東京国際映画祭」は、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で10月27日〜11月5日に開催。
(提供:オリコン)
10月10日 8時00分配信