鹿児島大学教授が開発した画期的な「がん治療薬」 本承認に向け最終治験へ がん細胞だけを破壊するウイルス
鹿児島大学の教授が開発した画期的な「がん治療薬」が承認に向けて最終段階に入りました。
日本人の死因ナンバーワンであるがん治療に新たな可能性をもたらすのか取材しました。
がん治療というと、抗がん剤や放射線療法が一般的ですが、まったく新しいアプローチの治療薬の研究が鹿児島大学で進められています。
「ここは細胞の実験をやる部屋なんですけど、一般的な細胞の実験もですし、ここで遺伝子の設計図を向こうで作ってきたこっちを持ってきて、細胞の中に入れると細胞でウイルスを作ることもですね」
小戝健一郎教授、遺伝子治療や再生医学分野を専門とする研究者です。
中心となって開発に取り組んでいるのが「がん細胞だけを破壊するウイルス」です。
鹿児島大学 小戝健一郎教授
「ウイルスを遺伝子組み換えして、がんだけを殺して、正常細胞ではウイルスがもうストップして増えないようにするという新しい技術で、ウイルスが薬になるんです」
用いるのはアデノウイルスという通常であれば発熱やのどの痛みといった風邪の症状を引き起こすウイルス。
このウイルスの遺伝子を一部組み替えてがん細胞だけに反応して破壊するようにしたSurv.m-CRAを独自開発しました。
副作用が少なく、局所的な投与で効果が期待できるといいます。
鹿児島大学 小戝健一郎教授
「ウイルスそのものを作り変える、よく映画の『バイオハザード』とかに出てくるようにウイルスを付け替えてウイルスが人工的にその特性を変える。だから我々は人類の味方になるように、ガンだけを殺すようにウイルスを作り変える」
小戝教授らはこのウイルスを希少がんである「原発性悪性骨腫瘍」の治療薬として承認申請しました。
10代が発症しやすい骨にできるがんで、国内の患者は500人から800人ほど。
有効な治療法は確立されていません。
医薬品として本承認を受けるには三段階の臨床試験で安全性と治療効果を確認する必要があります。
Surv.m-CRA-1は今年2月に第2相治験までが終了。
高い安全性と一定の効果がみられるとして先月鹿大病院での最終治験に入りました。
順調にいけば2027年中にも本承認され、実用化となります。
鹿児島大学 小戝健一郎教授
「今のところはもし承認されれば我々が第1号になるかと。世界でも、日米欧ですけど二例目になるのかなという。今のままいけばですね」
小戝教授の構想には続きがあります。
Surv.m-CRA-1はがん細胞を狙い撃ちしますが投与した周辺にとどまり、転移性のがんには対応していません。
次のバージョンでは免疫を誘導する遺伝子を搭載。
投与することで体内に免疫が作られ転移したがんにも効く薬を目指します。
鹿児島大学 小戝健一郎教授
「膵がんとか進行した乳がんの患者さんで他のが効かないとか、あるいは胆管がんとかそういうのはなかなか治らないんですね。そういうのは、免疫を遺伝した次のやつだとこの免疫を教育して、免疫が『ここにがんがあるんだ』と認識してくれる。これだと免疫が認識さえしてくれれば、原理的には体中を探していって、がんを殺していくんでかなり多くのがんに適応できると思っています」
かつては小児科の臨床医の道を進んでいた小戝教授。
1993年にアメリカの大学に留学しまだ研究が始まったばかりの遺伝子治療を学びます。
2006年に鹿児島大学に赴任後も研究を進め、国の事業に採択された補助金などで最先端の設備を整えてきました。
鹿児島大学 小戝健一郎教授
「一応うちの研究室では、ここまで全部そろってますので、自分の研究室の中ですべて完結できるようにしております。20年前、私が来た時はもう何もないクーラーすらない状態でしたけどですね。今は整理できて」
3年前には10億円の出資を得て治療薬実用化のためのスタートアップ企業を立ち上げました。
成果が出れば大学に収入が還元されるだけでなく地域の盛り上げにもつながるといいます。
鹿児島大学 小戝健一郎教授
「我々がやっているのは医療なんですけど本当は経済の発展とか、日本には資源がないんで本当は地域の発展の切り札になるんですね」
社名は「サーブ・バイオファーマ」。
様々な意味がこめられています。
「このiはサーブってわかるようにあのバイラス(virus)を逆読みしてるんですよ。ウイルスを逆転の発想で、悪者を正義の味方にしようとして、iを除いてロゴに閉じ込めて。このiは日本人のラブ(愛)でもあるし、躍動しているし、何より桜島の(形)。だから色んなことをこめてvirusを逆転の発想で、人類の敵を人類の味方にしたと」
鹿児島大学の研究から生まれた革新的ながん治療薬が本承認、そして販売へ。
国内の製薬会社とも提携し、準備は着々と整っています。