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庶民入りづらいビル増加に逆張り?

 100年に1度と言われる大規模再開発が進み、新たな商業ビルやオフィスビルが続々と誕生している東京。木造ハイブリッド構造やガラス張り、常設のテナントを設けない…など、おしゃれで新奇性に富んだ施設を見ることができる。ただ飲食店については、なかなかに高額だったり、入りにくかったりと、一般庶民がデイリー使いするにはハードルが高いことも。そんな中、ひと味違う大規模複合施設がこの秋、芝浦にオープン。ピカピカのオフィスビルなのに、目指すは“街のコミュニティハブ"。その心は?

【写真】これは行ってみたい!ブルーフロント芝浦の飲食店

■新オープンの商業施設、割高? ガラガラ? 庶民には敷居が高いことも…

 とある休日、筆者は友人とゆっくり会話を楽しみながら夕食をとりたいと、オープン間もない大規模商業ビルを訪れた。流行に敏感な人や訪日観光客でごった返す光景にひるみつつ、お目当ての店の前で目にしたのは…食事のみで8000円以上という値段。諦めて近くのオフィス街へと歩を進めたところ、先ほどの混雑が嘘のようにあたり一帯閑散。ビル内の飲食店街は個性的な専門店が揃い、値段が手頃であるにもかかわらず、どの店もガラガラ。いわゆる“普通の人たち"は見受けられない。先ほどの商業ビルはインバウンドや富裕層、特別な日の利用客向け。オフィスビルはそもそもワーカー向け…と、ターゲットが違うと言われればそれまでだが、なんとも居心地の悪い思いをしたものだ。

 そんな中、この9月に芝浦に「地域に開かれた」「気軽に誰でも利用できる」という触れ込みの大規模複合施設がオープンしたという。JR浜松町駅のほど近く、BLUE FRONT SHIBAURA(以下、ブルーフロント芝浦)のTOWER Sがそれだ。前述のような体験をしていただけに、半信半疑で訪ねてみたところ、意外な光景を目にした。

 まず気分が高まったのは、浜松町駅からビルへと直結する“GREEN WALK"。緑や海風を感じるアプローチから、そのまま1階の飲食店街に入ることができる。TOWER Sは多くをオフィスが占めるものの、いわゆる“オフィスビルあるある"の入りにくさは一切ない。ちなみに反対の運河側は、東京の新たな交通手段として期待される舟運の要、船着き場と直結している。

 気になる商業フロアは、1階の「グリーンダイニングホール」に6店舗、2階の「キャナルダイニングホール」に8店舗。採光豊かで植栽に彩られたスペースは解放感が満載だが、店舗の専有部は一部で、多くが共有部となっているそうだ。しかもデイタイムはフードコート形式で、共有部はお店を利用しない人でも使用でき、仕事や読書、また持ち込みもOKだという。これはたしかに「開かれた」とも、言えなくもないかもしれない。

 とはいえ、このブルーフロント芝浦でオープニングイベント(9/1〜15)が開催された際は、「以前は休日は閑散としたエリアだったので、どのくらいのお客様に来ていただけるか非常に不安だった」とのこと。正直な心境を明かすのは、商業エリアの開業準備・運営推進を担ってきた野村不動産の吉田尊さんだ。

 だがフタを開けてみれば、イベントにはベビーカーを引いた家族連れやお年寄り、テラス席にはペットを連れた人たちなど、休日も地元住民で大盛況。「働く人向けの施設は多いけれど、地元の人間が使える場所はなかったので、とてもありがたい」「オープンを待っていた」との声が寄せられ、「とても嬉しかった」と吉田さんは笑みをこぼす。

 そんな吉田さんは、これまでも他社で多数の大型商業施設の運営・運用を担当。「建物だけでなく、商業を軸に人々の暮らしにもっと寄り添った施設づくりに挑戦したい」という思いがあり、ブルーフロント芝浦はじめ商業事業に携わるべく野村不動産に転職した。

 「それまでは、対女性、対富裕層など、ターゲットを絞り込んだ施設作り、施設運営に携わってきました。でも、その中でみなさんの価値観の変化を体感してきて、リアルな暮らしに寄り添った施設づくりに興味を持つようになりました」

 その興味がブルーフロント芝浦に向いたのは、「ここが、まっさらな状態からのスタートだったから」。

 「しかも、遠方から上質を求めて訪れるというよりは、等身大であることがコンセプト。ワーカーが働きやすく、地域の方にとっても開かれた心地よい場所とはどのような施設なのか。街のコミュニティハブになるためには何が必要なのか。ワーカーにも地域の人にも寄り添うというのは、商業施設でも新しい取り組み。ぜひ挑戦したいと思いました」

■オフィスビルなのに飲食店街は「持ち込みOK」、太っ腹な試みの行方

 1〜2階に飲食店街を設け、「ダイニングホール」と名づけたのも、そんな考えが基だった。誰でも楽しめるのが「食」。それを中心に、ワーカーも地元住民も敷居の高さを感じることなく、懇親や仕事や読書など、思い思いの時間を過ごせる場所を作りたいと考えた。

 「敷居が低いといっても、安さだけではありません。しっかり美味しさを感じていただけるよう、適切な金額で専門店ならではのクオリティの高い料理を提供していただけることを、お店の選定の基準の一つにしています。商業施設への出店が初めてのお店もありますし、お店側と話し合いや調整を綿密に行いながら進めてきました」

 前述のように、このダイニングホールの特徴は、デイタイムとディナータイムの利用形式が異なることだ。デイタイムはフードコート形式で、気軽にランチ利用できるよう親しみやすい店づくりとメニュー内容、金額を重視。とはいえ、「共有席は持ち込みOK」というのは、施設やお店的には問題はないのだろうか――。

 「正直、ピークタイムの持ち込みに関しては社内で議論となりましたが、やはり『開かれたコミュニティハブ』をうたっている以上は、時間帯を決めずに持ち込みOKにしようと決めました。実際、お店で食事を頼む方とお弁当を持って来ている方が、共にランチをしているケースも多々見受けられます。実際、『次は飲食店で頼んでみよう!』とポジティブな利用に繋がっていることもあり、うまくいっているのではないかと感じています」

 なかなかに太っ腹な試みに見えるが、夜はまた違った顔を見せる。共用席の一部以外はレストラン形式で、スタッフが料理や飲み物をサーブするフルサービスを提供。レストランの雰囲気の中で料理を楽しみたい・楽しんでもらいたいという、ユーザーと店の需要に応えている。

 メインは昼と夜だが、朝やアイドルタイムも日が経つにつれ利用者が増加しているそうだ。平日朝は出勤前に業務の整理をしている人、散歩がてら立ち寄った地元住民。アイドルタイムには、遅めのランチをとるワーカーや、ティータイムをする地元の人たちが利用。平日はワーカー、休日は住民とキッパリ分かれることなく、両者が空間を共有している様も、これまでのオフィスビルには無かった光景だろう。

 「オープンしてから感じていることですが、目指しているのは“街のコミュニティハブ"のようなものかもしれません。運営に関しても、これまでは出店〜開業するまでが施設側の主な仕事で、その後は各店舗におまかせ、というのが一般的な考えでした。しかし、この施設では誰もが心地よい時間を過ごせる、特徴的な利用方法もあり、施設とお店の協業が必要。いわば、運命共同体のようなものです。我々もお店も初めてでわからないこと多いですが、今後もっともっと共に取り組み、成長していけるのではないかと考えています」

 店舗の専有部だけでなく共用席を多数設けたのは、誰でも心地よく過ごせることを目指したから。しかし野村不動産からすれば、店舗には大きい面積を借りてもらったほうが賃料が上がるわけで、共用部は少ない方が得。その点はどうなのだろうか?

 「たしかに、施設の収益は店舗の床面積で決まるので、共有部を少なくして店舗専有部を多くするのがスタンダード。そのほうが儲かります(笑)。初期には当社内でも議論はあったようですが、我々としては『施設全体でお客様の滞在価値を高めたい』という思いがあります。収益はもちろん大事ですが、訪れる人にとって心地よい環境を作ることは非常に大事。難しいことですが、バランス良く進めていきたいと思います」

 ブルーフロント芝浦の“まちづくり"のコンセプトは、飲食店街といえども決してブレさせない。収益は大事だが、それ以上に地域とつながり、クローズドにしない“街のコミュニティハブ"となることに主眼を置いた。

 「芝浦の開発は“開かれたまちづくり"を意識しながら、新しい働き方や商業施設のあり方を考えてきました。これまで、小さいお子様のいるファミリーや高齢者には、オフィスビルの飲食店はあまり選択肢に入らなかったと思います。それを変えていくのはチャレンジであり、難しさもあります。今後も、この街に関わるすべての人たちの多様なニーズに応えられるよう、取り組んでいきたいと考えています」

 オープン以降、休日には子ども向けワークショップや、映画鑑賞会などのイベントを実施。今後も、普段の空間をグレードアップさせるアプローチも構想中とのこと。

 地域の魅力向上を念頭に、誰もが過ごしやすい時間を提供することに注力した挑戦は興味深い。再開発の進む東京で、新規オープンの施設というと穿った見られ方をすることもあるが、入ってみると何か他とは違うのかもしれない…という思いが、実際にわいてくる。ブルーフロント芝浦を中心に、この街がどんな“等身大の居心地の良さ"を生み出していくのか、期待したい。

(文:河上いつ子)

(提供:オリコン)
10月21日 9時00分配信
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