なぜ“サイコスリラー”は人を魅了
前クールのドラマ、成宮寛貴主演の『死ぬほど愛して』や志尊淳主演の『恋は闇』など、昨今、テレビドラマやアニメなどでサイコパス作品が数多く作られ、SNSでは考察合戦が繰り広げられている。さらにYouTubeでは、未解決事件や都市伝説から裏世界史まで、世界中の不条理な事件を扱った動画を配信する「あるごめとりい」も話題に。主催者のけんちゃんこと西江健司さんは、チャンネルの中でも特に人気なのは、サイコパスが引き越した事件だという。なぜ、「猟奇もの」と呼ばれるジャンルは人を惹きつけるのか、背景を探った。
【写真】サイコ気味な表情で怪演する志尊淳、血を流して倒れる女性の姿も
■犯人の生い立ちや心情にまで迫る動画作り「正義とか悪はその人の立場によって変わるもの」
サイコパス――小学館デジタル大辞泉によれば、「精神病質(その人格のために本人や社会が悩む、正常とされる人格から逸脱したもの)である人」とある。『サイコ』等のヒッチコック作品や『ジョーカー』『羊たちの沈黙』など、長年にわたり数多くのヒット映画やドラマで描かれてきた影響からか、殺人を繰り返すなど、常人には理解しがたいモンスターをイメージする人も多いだろう。
そんなサイコパスによる凄惨な事件からオウム真理教のような宗教事件まで、数多くの事件の裏側を掘り下げた動画を2019年より配信、現在129万人ものチャンネル登録者数を誇っている「あるごめとりい」の主催者で人気オンラインサロン「秘密結社あるごめとりい」を運営している西江さんによれば、数あるコンテンツの中でも特に猟奇的な事件を扱った動画に人気が集まっているという。
例えば、そのひとつに、417万回もの視聴を記録している『【実話】10才少女が全国指名手配の殺人鬼を追い詰めた…福岡の大事件・西口彰事件』がある。詐欺と殺人を繰り返し、5人を殺害した連続殺人事件を追った動画だ。
「あるごめとりい」が他の猟奇趣味的な番組と違うところは、単に実際に起きた事件を紹介するだけでなく、犯人の生い立ちや心情にまで迫り、解説していること。
「西口彰事件」では、家に尋ねてきた弁護士を名乗る男が指名手配中の連続殺人犯であることを見抜きながらも家に泊めることに決めた被害者家族の決断と行動、その後の犯人との交流、死刑執行前に犯人が遺族に残した言葉まで、事件の背景や、犯人と事件にかかわった周囲の人物の心理までを丹念に描いている。
その背景には、西江さんのチャンネル制作に対するこんなこだわりがある。
「事件を起こした直前からの短い時間軸でみると常人には理解しがたいサイコパスに見える犯人も、幼少の頃まで遡ると、いじめにあっていたりとか、親からネグレクトを受けていたりとか、何かしらそこに至る理由があることが多いんです。そこはしっかり見ていきたいし、さらに言えば正義とか悪ってその人の立場によって変わるもので、犯人にとってその犯罪は正義だったかもしれないこともある。もちろん犯罪は許されることではありませんが、なぜこんな事件が起こったのか、その裏側までしっかり見ていく必要があると思っていて、オンラインサロン「秘密結社あるごめとりい」では、より深い部分について会員の方々と質の高い議論を繰り広げています。また、国内の事件の場合、被害者遺族の方がいらっしゃいますし、まだ判決が出ておらず断定的な言い方ができない場合もありますので、事件は慎重に選んで動画制作をしています」
YouTubeの規制が厳しくなり、表現の幅に限界を感じ始めた西江さんは、現在オンラインサロンで「より真実に近い情報を伝えられる場所を作りたい」と活動している。話題がセンセーショナルなだけに、議論がヒートアップしてしまうこともあるという。しかし、あえて主催している西江さんを介さない、参加者同士が自ら盛り上がり、“N対Nのコミュニケーション"ができる場こそ西江さんが求めていたものだった。
「サロン内のコンテンツは、事件の背景や犯人の生い立ちなどをより丁寧に解説します。それを聞いて、『犯人の気持ちもわかる』という人もいれば、『だとしても人を殺すのは違う』という人もいて、活発な議論が生まれています。ただ、発言者個人に対する人格否定は禁止していて、発言の自由は担保しつつも、みんなの心理的安全性は守れるように運営しています」
■「サイコパスがカジュアル化」若者を中心に気軽に使われる造語“パスみ"の解釈は?
最近では、猟奇的な題材を扱うドラマやアニメも大盛況だ。前クールのテレビドラマでは成宮寛貴主演の『死ぬほど愛して』や志尊淳主演の『恋は闇』、今クールは安田顕・水上恒司主演の『怪物』とサイコパスが出てくるドラマがズラリ。放送後にSNSで考察合戦が繰り広げられるなど、ドラマファンの間で盛り上がりを見せ、日常のなかで以前よりもカジュアルに“サイコパス"という言葉が使われつつある。
サイコパスと聞くとまさにモンスターとしか言いようがない犯人像が浮かぶが、とはいえ自分の身の回りを眺めてみても、わかりやすくモンスターの顔をした人など見当たらない。サイコパスの特徴は、「良心が欠如している」「他者に冷淡で共感しない」「慢性的に平然と嘘をつく」「行動に対する責任がまったく取れない」「罪悪感が無い」「自尊心が過大で自己中心的」「口が達者で表面は魅力的」などと言われているが、これらの特徴に当てはまる片鱗を見せる人は、意外と周りにいるのかもしれず、それを裏付けるように、現在はサイコパス度を測定するサイコパス診断がネット上に多数存在する。ネットでは「ヤバい人」を表す造語として「パスみを感じる」「パスっている」など、気軽に書いてしまうケースも。
この「パスみ」という言葉に関しては、「本来のサイコパスの意味より軽くとらえて、使っている人が多いと感じている」と西江さん。
「誰にでもある、“ヤバい"部分。これを自分の免罪符として使っている側面があるのではないでしょうか。今、サイコパスは猟奇殺人のような犯罪者を意味する重いサイコパスと、自己中心的とかちょっと性格的に難があるくらいの軽いサイコパスの2面性がある単語になりつつある気がします」
■自分の横にもいるかも? 観る人を惹きつけるドラマのサイコパス像「AIが発達しても人の人への興味は変わらない」
サイコパスという言葉を軽い意味で使う人もいる一方で、翻って考えてみれば、会社の隣の席に座る自分勝手な同僚に一瞬の殺意を覚えたり、好きな推しを誹謗するSNSに異常なまでに敵意を持ったりと、一歩間違えたら自分も普通ではない領域に踏み込むかもしれないと思うこともある。
また、現代はストーカー被害や連れ去りなど理不尽な犯罪が取り沙汰され、そういった事件が身近に起きるかもしれない恐怖も相まって「あるごめとりい」の動画や映画・ドラマの中のサイコパスに関心を持つ人が多いのではないだろうか。
「これまでサイコパスを主軸とした映画やドラマを観尽くしてきた」と話す西江さんは、最近のサイコパスドラマの傾向を、「見るからに怪しい人が犯人だったというより、実は身近にいた目立たない人が犯人で、もしかして自分の横にもいるかも? というような怖さがある作品が多いと感じている」という。
「やはり人は人に興味があるのだと思います。視聴者から『勉強になりました』とか『自分もこういう状況にならないように気をつけようと思います』という声をよくいただくのですが、例えば恋愛ノウハウ系のコンテンツの人気を見てもわかりますけど、他人は自分の思い通りになりません。そんな中、少しでもその恋を成就させる確率を上げるための学びとして見ている人が多いと思うんです。僕たちのチャンネルも、防犯の学びとして見ている人もいれば、人間というものが知りたくて見ている人もいる。死ぬまで人は人と付き合っていくものですから、人への興味は古今東西変わらず、一定の需要があるものだし、今後、いくらAIが発達してもそれは変わらない気がします」
AIが台頭することで便利になる一方、対面での人との関りは減り、ますます人間関係が希薄になっていく――そんな時代になればなるほど、逆にまだ人間自身もよくわかっていない人間という存在を理解したいという欲求が高まっていくのかもしれない。
(取材・文/河上いつ子)
(提供:オリコン)
9月2日 9時10分配信
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